巨大な臼歯とオオカミの強力な顎は獲物の骨を粉砕するために使用されています。オオカミのアゴの力(咬合圧)は、1平方インチあたりの圧力で1000?1500ポンド(450~680kg)です。ヘラジカの大腿骨を6~8回咬んだだけで食べられます。ジャーマンシェパードは、1平方インチあたり750ポンド(340kg)の咬合圧、人間は、1平方インチあたり300ポンド(136kg)とはるかに低い咬合圧です。
アゴの力は獲物を食べるときだけでなく、オオカミの狩の場面で役に立ちます。
オオカミの狩では獲物を追跡し、咬みついた後アゴの力で大きな相手にぶらさがり、バランスを崩させて倒しますから、捕えたときに決して放さないことが重要なのです、そして獲物が倒れたあと、時間をかけて骨までかみくだきます。
強い咬合圧を支えるため、強く太い筋肉が頭蓋骨を覆っています。そのため正面から見ればオオカミは頭が大きくがっちりと発達したアゴをもっていることがわかります。
オオカミは何本の歯を持っているのか?
成獣は42本の特に進化した歯を持っています。人間の歯は32本です。犬歯や、牙は、2 1/2インチ(6センチ超)と長く、刺すそしてつかむために使用されます。切歯は肉の小片をつまむため、裂肉歯はハサミやナイフのようなものです。オオカミは骨から切り離した肉にそうした歯を使います。臼歯は、骨を噛み砕くためのものです。
シカにくらいついて放さないためには、アゴの前のほうにある咬みつくための歯、特に犬歯が頑丈なことも重要です。人間でも犬歯はもっとも頑丈で、年を取っても、最後まで残るものだそうですが、イヌ科でも同じように、特にオオカミの犬歯は大きく頑丈です。
同時にシカの体を覆う皮を切り裂いて肉を食べる歯が必要になります。
オオカミだけでなくネコ科肉食獣やキツネなどの中型肉食獣まで、すべての食肉類は「裂肉歯」という歯をもっています。この歯は、アゴの関節と先端部との中間あたりにある、臼歯が変形したナイフのような歯です。上下に一本ずつあり、その2本をスライスさせて、ハサミのように肉や皮を切るために使います。イヌと比較すると犬歯や牙、臼歯のサイズの差は際立っています。オオカミは肉食獣の歯、イヌは雑食化した歯です。
オオカミは獲物のシカをほとんど食べつくします。食べないのは大きな骨と頭蓋骨と胃の内容物(消化中の植物)だけです。一度に爆食することができる胃袋をもっています。
ハイイロオオカミはただ活動するだけなら、一日一頭あたり約1kgの肉があれば最低生きることができますが、繁殖して子供を産むためには、約3kg食べる必要があります。その食べものを毎日平均して食べる必要はなく、成獣なら10kgの肉を一度に腹に詰め込むことができ、それを消化しつつ10日から2週間分のエネルギーにすることができます。
しかし成長中の子オオカミは、生まれた年の秋までに、大人と一緒に行動し、狩りに参加する強さを獲得するためには十分な栄養が必要です。
イヌとオオカミの消化能力に関して両者を比較した研究(2013年)によれば、イヌが雑食で、オオカミが肉食だということが明らかです。その研究はイエイヌが肉食のオオカミから人間の残飯を食べる家畜へと進化したのは、でんぷんを豊富に含んだ食事を消化できるよう遺伝子が変化したためだとしています。(Nature)イヌは完全な肉食ではなく、ハイイロオオカミは、主に有蹄類を食物にするオ捕食者であり、肉食獣です。
自然死したシカを、カラスやキツネなどの森にいる小さなスカベンジャーだけでは、皮を切り裂いて肉にありつくことが難しいようです。シカの死体はほとんどスカベンジャーたちの胃袋には入らず、昆虫や微生物等の分解者たちの食糧になり、朽ちていくことになります。しかし、オオカミがいれば、捕食したシカの死体は、裂肉歯で切り裂かれ、小さな骨まで噛み砕かれて、カラスや他の中小型肉食獣がおこぼれにあずかることができます。森林生態系のより多くの動物がその恩恵にあずかることができます。