ウィスコンシンのナワバリマップ


オオカミのナワバリ

オオカミのナワバリは広い面積を必要とします。ただ広い面積が必要なのではなく、ナワバリ内にいる獲物の確保が必要なのです。獲物の量によってナワバリ面積が決まります。

アラスカやカナダ北部のように植生が薄く、その地のシカ類、北極圏ではカリブーなどが広い面積に密度薄く生息している場合にはオオカミのナワバリも広くなります。10万ヘクタール、あるいは16万ヘクタールと推定されたケースもありました。逆にニホンジカと同じくらいのオグロジカ、オジロジカのような中小型の有蹄類、獲物が多数生息しているアメリカ中西部では、オオカミのナワバリ面積も小さくなります。

オグロジカなどを主な獲物にしているアメリカのミネソタ州、上に地図を掲載しているウィスコンシン州やミネソタ州あたりのオオカミのナワバリ面積は平均して2万ヘクタール程度です。

他の群れとの関係 緩衝地帯

いくつもの群れが同じ地域にあれば、それぞれのオオカミ群は、獲物を隣の群れと取り合わなければなりません。獲物が少なくなってくれば、獲物を求めてナワバリを広げ、群れ同士が鉢合わせして争いになるかもしれませんので、それを避けるために、遠吠えで境界を確認しあい、互いの群れのオオカミが近づかないようにします。そこに数キロ幅の緩衝地帯(バッファーゾーン)が生じることになります。アメリカの公的な報告書などではナワバリ面積に対して約40%を緩衝地帯にあてて計算しています。

その緩衝地帯は、獲物動物にとってはオオカミの捕食を逃れることのできる場所になります。獲物動物のシカがそこに集中してナワバリ内に少なくなるようなら、オオカミはナワバリを変更し、シカはまた新たな緩衝地帯に逃げ込むことになります。ナワバリとシカの位置関係はオオカミと獲物の関係だけでなく、獲物と植物との関係で重要なのです。植物は、緩衝地帯ではやや過剰に採食されるかもしれませんが、オオカミエリア内では生き返ることでしょう。

ナワバリの確保は、獲物の確保

では、ナワバリ内には、オオカミが十分なエサを確保するためには、シカがどのくらいいればオオカミが生息できるのでしょうか。

オオカミ研究者D・ミーチ博士は、オオカミ一頭あたり、オジロジカなどが350頭くらいいればよいのだと言っています。オオカミが生きていくために確保しなければならない獲物の頭数は、これくらいが目安ということなのです。

2~3万ヘクタールのなわばりに、8頭のオオカミの群れがいたとすると、緩衝地帯を含めて5万ヘクタールくらいの広さに2800頭くらいのシカがいれば十分な獲物の頭数ということになります。獲物が減ってしまって、低密度になってくれば、獲物を確保するためにオオカミのナワバリは広がります。


ナワバリ面積と日本の自治体面積

アメリカ合衆国地質調査所(USGS)の研究員が調査した最小のナワバリ面積は、2500ヘクタールだったそうですが、平均するとアメリカやヨーロッパの場合には、およそ2万~3万ヘクタール程度の場合が最も多く、緩衝地帯を含めれば、5万ヘクタール程度になり、その中に一つの家族、8頭から10頭が生活しているというのがオオカミの群れとナワバリのイメージです。

たとえば5万ヘクタールくらいの自治体をいくつか挙げてみましょう。

・山梨県北杜市 約6万ヘクタール

・埼玉県秩父市 約5万8千ヘクタール

・長野県大町市 約5万7千ヘクタール

・三重県伊賀市 約5万6千ヘクタール

・京都府福知山市 約5万5千ヘクタール

・熊本県山都町 約5万4千ヘクタール

・高知県香美市 約5万4千ヘクタール

 

この市や町に一家族10頭が生息していると考えると、生息密度は1平方キロに0.02頭程度になります。オオカミは、この広いナワバリを毎日食事のために獲物を探してナワバリ内を走っています。トロットで1日に40~50キロを走り、獲物を探し、捕食すれば食べ終わるまでしばらく休み、また走り出します。アメリカでもヨーロッパでも、同じように。オオカミが走る獣と言われる所以です。