●日本に復活したオオカミは
現実に日本にもしオオカミが戻ってきたら、捕食する獲物は何でしょうか。
どこから連れて来るかによって、そのオオカミがどのような獲物になじんでいるかは変わりますが、たとえばモンゴルや中国内モンゴル自治区大興安嶺だとしましょう。すると、オオカミの獲物は、アカシカ、モンゴルガゼル、イノシシ、ノロジカ、マーモット、ノウサギなどです。(「オオカミを放つ」)一方、ユーラシア大陸の西の端、ヨーロッパあたりでは、前述のようにアカシカ、ノロジカ、イノシシなどが中心です。
ユーラシア大陸の西から東まで、ヨーロッパもモンゴルも同じ亜種タイリクオオカミですから体格にそれほど違いはありませんし、獲物もほぼ同じ有蹄類が生息しています。
北極圏では、カリブー、ムース(ヘラジカ)などの大型のシカが獲物です。北極圏から南に下ってアメリカ合衆国内では、有蹄類は少し小型になり、カリブーのように長距離を移動するものもいなくなります。北部では体重800㎏にもなるムース、200~300㎏のエルクジカ(ワピチ)、そして中西部以南ではオジロジカ、オグロジカ、ミュールジカといったニホンジカ程度の大きさのシカが主流になります。
ロッキー山脈などの山岳地帯に目を移すと、岩場に棲みついたオオツノヒツジも獲物になります。ところが西部の平原地帯プレーリーに生息するプロングホーンには、オオカミは興味を示しません。プロングホーンは平原を駆ける姿が特徴的な、とてつもなく速いシカです。時速100kmで走り、速すぎてオオカミが追い付くことはほとんどできないため、獲物リストからはずれてしまったのです。
そしてイエローストンではようやく増えてきたバイソンも獲物の一つです。この野生のウシは、体重が1トン近くにもなりますので、健康な成獣が捕食されることは多くはありませんが、ケガをしたり病気をした個体や幼い子どもが獲物になります。
ビーバーのような中型の動物も、オオカミの夏の獲物として挙げられています。
日本に生息する有蹄類は、本州のニホンジカ、カモシカ、イノシシ、北海道のエゾシカ、それに今千葉県房総半島で生息を拡大しているキョンです。
どの動物を捕食するかといえば、やはりシカが中心になるでしょう。いま全国には、本州にニホンジカ推定220万頭、プラス北海道に約50万頭のエゾジカが生息しています。オオカミが獲物を探して移動中、最も遭遇する確率が高く、肉の量としても群れで食べるのに適当なサイズだからです。
そして希少動物であるカモシカはどうかといえば、捕食の対象にはなりますが、圧倒的にシカの頭数が多く、カモシカは少数なのですから捕食の確率ははるかに低くなります。目の前のシカをほっておいてカモシカを探すようなことはありません。また、カモシカはけっこう攻撃的な性格で、山岳地帯で生きることができますから、捕食者の登場で山岳地帯に逃げ込み、崖を背に、角を振るってオオカミを撃退することも想像できます。
また、サルやアライグマも捕食の対象です。サルは地上に降りたところを狙われるので、樹上にいる時間が長くなるかもしれません。